出産記
朝9時に、診察があった。
診察と言ってもいつもの外来の内診室。
一般の妊婦さんと混じっての診察なのです。
ふーちゃんも一緒に来ていて、チョコンと横に座っていた。
内診台に登ると、一番多く診て貰っていたタカロウ先生の診察だった。
「tamakiさん、一回帰ります?このままだとマダマダ産まれないよ。」
昨日3cmは開いたはずの子宮でも、ダメだと言われた…。
「イイエ、帰りません!土日で産みたいです。」
とめちゃハッキリ言うと、
「オォ。それなら。」
と先生は言い、
「お母さんがその気ならいっくらでもお手伝いしますからね。」
となんだかちょっと嬉しそうな声で先生は言い、
「今から破水させますから。今日の夕方には産まれますよ。お手伝いしますね。」
先生は言いながら、もう私は破水のあの感覚を味わいながら、あっと言う間に、それは決まったのだった。
破水!!!
ふーちゃんは破水から産まれた。
あの誕生のあのあれあれが、そう、また私の身体に起こっていた。
人工的に破水させたのだが、とにかくそれはお産に繋がる確実な第一歩。
「ありがとうございます、わーーーい!」
思わずそう言って、先生も看護婦さん達も慣れていて、分厚いナプキンが渡され心電図を取って2階にあがり、ケンちゃんにパッと説明して、じゃーもうとりあえず破水してるわけだし分娩室行きますね、とハナワさんという看護婦さんに指導される。
この間、あの診察の人工的な破水が9時半頃で、LDRに移ったのが大体…11時頃だったか。
飲み物のお茶を取りに行ったり、必要な物を揃えたりしている間、何往復か廊下を歩いているうちにだんだん私のお腹も張りだしてきて(痛みはないですが)、良い感じ良い感じと思っていた。
お父たん達はいったんお家に戻って必要な物細々した物を取りに帰ったりして時間を潰していてくれた。
LDRの分娩台に登りハナワさんと少し話をしながら子宮の収縮を診ていたが、10分間隔であるかないかの収縮だったので、とりあえず錠剤の促進剤を1粒ずつ2回にわけて飲んだ…。
ハナワさんに、ふーちゃんは破水のお産だったこと、この時は大体8時間くらいかかったし点滴だけだし初産だから痛かったこと、スイちゃんは自然分娩だったんだけど5分間隔の陣痛が来て子宮口が5cm開いてる時点で旦那さんに電話し、その後看護婦さんが内診したらもう全開大で、さらに分娩台まで歩いたからか先生が間に合わなくて股を押さえるようにしていた事、2回いきんですぐ産まれたことなどを話した。
「今度も、痛くなったら早いかも知れないね。」
とハナワさんはとってもとっても感じのいいそれでいて気の利く頼りがいのある看護婦さんっぽくて、ちゃんと全て理解してくれていた。
そう言ってるうちに、収縮は7分間隔になってきて、内診してもらうと5cm開いてるとのことだった。
「こっから早いかもね?」
とハナワさんが話しているともう私の数え方では5分間隔になってきていて…でもまだ痛みは来ない。
「5分くらいになってきたなあ、」
と言うか言わないうちに、初めて見る産科医の先生が立ち寄って様子を見てくれたんだけど、その、胎児の心音と子宮の収縮のグラフと7分間隔5cmと言う言葉だけ聞いたその先生は
「ま~あと1~2時間で産まれるって事はないでしょう、これからもう少し痛くなるから様子見てね。」
とだけ言うとまたどこかへ去っていった。
私もハナワさんも「はぁ、」とは言ったが、もう5分間隔に来ている収縮…ハナワさんはすぐ、
「そろそろ用意しとこうね。」
と部屋の扉を開けたり締めたりしていろんな器具や荷物をあちこちから出してきて並べて、別のもう一人の看護婦さんと手分けしてなんかいろいろ用意を始める。
私は、ふう、ふう、とそろそろ収縮も頻繁に、アレ、もう4分、3分間隔…と思い始めたとき、来たよ!
来ましたよ来ましたよ!!!
陣痛だよ!!!
「い、痛くなってきましたあ!」
一度痛みを辛抱して、2回目で私はハナワさんに報告した。
一度目の陣痛は確認のため。
そう、これだ、これが陣痛なのだ!とハッキリ思い出してから、ハナワさんに言ったのだった。
「来た?よし、診てみるね。」
内診したハナワさんは、
「ん!…お産です!」
と言って、その頃にはもう全て用意が調っていた部屋にたくさん看護婦さんを呼んでくれ、テキパキと事が運んでいった。
「イヤー、はやいねえ!」
何度もハナワさんはそう言っていた。
私もまだ話す余裕があり、旦那さんは立ち会い希望だけど見てくれる人が居ないので今回は良いです、と言うと、看護婦さんが子供をあやしてくれるので大丈夫と提案してもらった。
ケンちゃんは白衣(っつっても青かったけど)を着込んで若い看護婦さんにふーちゃんとねんねしていたスイを預けて、入ってきた!
ま、まだあんまり痛くない、でも突き上げるあの感じが来ている私!
「あ、先生到着。」
とハナワさん、すげえ良いタイミングなわけです!
先生は、タカロウ先生だった。
「ネ、ボク言ったでしょう…今日生まれますからね、って。」
と言う先生の声がした。
「はい、はい。」
と私は必死に頷いている。
ハナワさんはたぶん私と同じか少し上くらいの看護婦で結構貫禄のある人なんだけど、それ以上に50歳くらいの看護婦さんがもう一人来て、その人と二人で、若い看護婦さん達に指導しながらお産のお手伝いをどんどんしてくれていた。
もう一人の年輩の看護婦さんは私に次の陣痛でのいきみ方を説明して、私はなんとか頑張ってそれを聞いて…
うわあ、もう、あとはもう、勢いだけだった。
スイの時。
2回のいきみでぽこんと産まれた。
あれを想像すると、今回のは、
(産まれない、これじゃ。)
と思いながらのいきみだった…確かに!
なんともテンポの合わないいきみで、自分でびっくりした。
(産まれない!)
(産まれない!)
(違うってば!こんなんじゃない!!)
頭の中で私が言っていた。
お前、まだまだだぞ。
そう思いながら、3回、いきむ。
きばってみろ!
もっとだろ?
もっともっとだろ?
と私はそう言う。
「今ね、赤ちゃんの頭が見えたり隠れたりしてる状態。」
と看護婦さんの声がする。
まだまだだ。
私の頭の中で声がする。
「じゃあはい、また、いきんで!」
いーーーきーーーーーんーーーーーーーーでええーーーーーー!
やってみろ、あのスゲエのやってみろ!
今度は本気で。
私は私にそう言うと、目から涙が出て、顔は火照って赤くなるのが分かって、汗は噴き出し、足は、今まで忘れていた足、それを、もう思いっきり踏ん張った。
もう無理もう無理。
もうこれ以上はない。
こ・れ・が・げ・ん・か・い!
って、思って、
そうして、3人目の私とケンちゃんの子供が生まれた。
あああー。
そうだった…。
そうだったんだ。
こっれ以上は出せないよ、って限界の力を出したとこで、そうだ、それがホントに終わりで良いんだったな。
想い出したんだ。
前も、その前も、
「さいごのちから」
を、神様みたいな大いなる力は見ていてくれてさ。
本当に私がそれを、さいごのちから、を、感じたとき。
宝物をホラヨッとくれるのだった事。
私は、思いだしていた。
「はい、生まれた!泣くよ!!ホラ泣いた!!!元気な赤ちゃん…。」
看護婦さんの声がした。
赤ちゃんの泣き声がした。
ケンちゃんの喜ぶ声がした。
はぁ~~~~~~~~~~~~~~~~。
終わった。
術後の処理は、痛かったけど、いつものように興奮のうちに終わって、もう先生のしょーもない冗談とかに軽いツッコミを入れられるほどの余裕が生まれるんだから不思議なもんだお産って。
赤ちゃんはとっても元気だった。
元気な元気な、とっても美人な、女の子だった。
1月28日12時55分生まれ。
2800gピッタリさん。
これからよろしくね。
ふーちゃんとスイを見てきてくれと私は言い、ケンちゃんも見に行って、すると若い看護婦さんがとても上手にふーちゃんを見てくれているので(スイは夢の中)まだターちゃんのそばに居てあげて大丈夫みたいだよ、とケンちゃんは言ってくれた。
よかった、3人とも立ち会い出来たね。
みんな平等に出来たね。
良い病院でホントに良かったね。
私もケンちゃんもそう思っていた。
ああ、いろいろ処置があって、ふーちゃんも「ママオメデト。」とぴょこんと言いに来てくれて、私は傷跡とかの処理の説明とかいろいろ聞いて、担架に乗せられ病室に戻った…。
出産直後から8時間は歩行してはいけない。
ただ寝てるだけ。
ベッドを高い位置に動かして(じゃないとチビ達が容赦なく登ってくる)、縫合の痛みや子宮収縮の痛み腰の痛み足の痛みいろんな痛みを飲み込んで、私は、とても興奮していた。
ふーちゃんもスイちゃんもケンちゃんも、ニコニコしていた。
出来ることなら、チビ達とケンちゃんと、一緒に過ごしたかった。
けれど昨日の夜のことを考えるとダメだった。
狭い病室、狭いベッドに狭いソファー。
そこに、チビ2人が居ては私はきっと出産直後だとしても、休むことは出来ないんだろう。
8時間経ったら、無理をしてでもチビ達の世話をして、夜中はチビ達の寝る体勢を整えたり布団をかけ直したり、散らかってる部屋を掃除したり、そんな事までしてしまうだろう。
「ごめんね、今日は、大変だろうけどチビ連れてお家に帰ってくれる…」
ケンちゃんにそうお願いして、ケンちゃんはすぐに私のそう言う気持ちを察して、パッと帰ってくれた。
とにかく、今日だけは、身体を休めなくてはならない。
ヒトという動物である私が奥の方でそう言ってる言葉に従った。
一人で過ごす病室は淋しくて、眠れなかったけどね。
ああ、3人目が生まれた。
今日はそう言う日だった。
我が家の三女さん、名前はリュカちゃんです。
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